John Doe(短編小説)

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アラバマ州ジェファーソン郡の子供たち


ほんとのことは、分からない。

ただ、僕らはアメリカ南部の人間であること。そして、先祖はもともとアフリカ大陸のどっかから連れて来られた奴隷だったこと。
だけど、先祖がヨーロッパ人を恨んでいたかどうか、ほんとのことは、分からない。

僕らはタクシードライバー。でも、あの映画みたいに元兵士のドライバーなんて一人もいないよ。ほんとさ。ただ、このアラバマのタクシー会社の社員はほとんどがアフリカ系アメリカ人なんだ。僕を含めてね。
僕はジェファーソン郡に生まれたから、たぶん死ぬまでこのふるさとを出ないと思うよ。こうやってタクシーを乗り回すのが大好きだからさ。

何不自由ない。そうやって僕らは様々な人種で溢れかえるこの軍事大国でうまくやってるんだ。うまくやってられないヤツはクスリに手を出したり、犯罪を犯したりするけど。僕はこの街が気に入ってるんだ。1981年に大学生の頃、僕はパリを訪れたことがあるけど、やっぱり僕はジェファーソン郡が好き。

デパートのタクシー乗り場で停車してると、白人の一家が僕の車に向かって「ヘイ!タクシー!」と叫んだ。銀行員風の男の手を握る小さな女の子、清潔な服装の女は赤ん坊を抱えていた。僕は笑顔で扉を開く。四人だったから、助手席に女の子が座った。小学生くらいの。僕の娘より少し小さい。

僕はこの仕事が好きだ。女の子の顔を見て笑った。

「どちらまで?」

9/29/2023, 5:14:37 AM