『星が溢れる』
「先輩、戻りましょうよ〜」
街外れにある、とある廃ビルの一室にて。
私は剥き出しになったコンクリに集音器を当て、となりの部屋に聴き耳を立てていた。
「おっ、次は麻薬の元締めについて話すらしい。これは、どんどんシマが上がるぞ」
「やっぱり危険ですよ。早く誰かに連絡するべきでは」
そういいながら、私の背広を力なく引っ張るのは、
私の部下もとい後輩。
今年で3年目になるらしい。
だんだんと、背広を引く力が強くなるので、
仕方なく集音器から耳を外し、私は後ろへと振り返った。
「お前は、このままでいいのかよ」
「何がです?」
後輩は、さも不思議そうに首をかしげていた。
その表情のなんたる呑気なことか。
こいつ、自分の置かれてる状況をまるで理解していないようだ。
「いいか?この薄いコンクリートの壁の向こうには、世間にも公表されない、凶悪なホシが溢れているんだ。それをお前、指を咥えてみてろって言いたいのか」
「いや、だから他の人に連絡して、応援を呼びましょうよ」
「それだと、俺の手柄にならないだろうが!!」
その声は、築数十年と思われるこの廃ビル内に響き渡った。
すると、となりから何名かがこの部屋に駆けつけて、
私たちはどこかへ連れ去られてしまう。
現在。
ここがどこなのかは分からない。
ただ一つ、確かなことがあり、
それは、見上げた夜空には、星が溢れる。
じきに私たちも、あの中の一つになるのだろう。
3/16/2026, 9:55:01 AM