恋物語
「お前は夢見がちな恋愛ばかり書く。現実味がない」
端羽の小説はいつだって満たされている。どこにも影がなく、まさに綺麗な青春だ。
だから俺はあえていつも以上にキツく言ってやったのだ。しかし端羽は「そうか」とアイスコーヒーを口にした。そこには歪んだ表情も悲しい表情もない。あるのは、動じない穏やかな端羽のいつものそれだった。
「くやしくないのか?」
思わず口にしたそれに端羽は笑う。
「僕の創作が君に合わなかっただけだし、夢見がちなのは事実だからね。まあ、全く傷ついていないと言えば嘘になる。でも――」
俺は端羽の真っ直ぐな視線と言葉に何故か逃げ出したい気持ちに駆られる。
「空想の世界だからこそ、僕は綺麗なものを書きたいんだ」
ふと自宅のパソコンが頭に浮かんだ。俺のいつまで経っても完成しない小説が真っ暗な画面の向こうで俺みたいに捻くれた顔をしている気がした。
「僕もまた読みたいな。君の面倒くさい現実味のある小説」
「……そうかよ」
「これでおあいこさ。それに、僕は君みたいな話は書けない。だから良い刺激になる」
「……ごめん」
「いいよ。そら、人に当たり散らすのが済んだら自分の創作にその迷惑な感情を叩きつけてやれ」
痛いところをつかれ、俺は顔を上げることが出来なくなった。
日々家
5/18/2024, 2:14:21 PM