ゆかぽんたす

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「ああ、そう」
それが、私が彼にごめんなさいと言った直後の彼の反応だった。ぶっきらぼうで少々不機嫌気味に言い放つ彼は、今間違いなく怒っている。その理由が分かるから、私は何も言えず動くこともできず、ただ立ち尽くすしかなかった。だって、彼より先に動いたら危険な気がしたから。まるで山奥で猛獣に遭遇してどうしたらいいか分からないような、そんな感じ。実際に味わったことは分からないけど、とにかく無闇に動いちゃいけないと思った。眼の前の、穏やかな顔した猛獣は、私のことをまだ許してないはずだから。
「そっか。……そっかあ」
頭を掻きながらぶつぶつと呟いている。薄ら笑いの顔が、逆に怖さを増している。彼のことを正面から見据えることができなかった。目が合うのを恐れじっと下を向く。だが突然私の腕をぐっと彼が掴んできた。反射的に顔を上げる。彼はやっぱり笑っていた。
「なんか言ってよ」
「なんかって……」
「ごめんなさいだけじゃ、分かんないでしょう?どうして僕じゃ駄目なのか、理由を教えてよ」
僕のものになってよ、と言われ、私はそれを拒否した。その回答が彼にとっては気に入らなかった。だから今彼はこんなにも静かに怒っているのだ。怒らせたのは私だけど、でも、彼の希望にはこたえられない。何故なら私にはちゃんと大切な人がいる。彼もその存在を知っているはずなのに、どうしてこんなことを言うんだろう。無理だと分かってるはずなのに。
「あはは。なんで?って顔してる」
「そりゃ、だって……」
「人を好きになるのに、理由とかしがらみって要るかな?」
言葉が出なかった。彼の言ってることはめちゃくちゃだ。そんな、独りよがりの考え方で私のことを手に入れようと思ったのか。
「逃さないよ」
彼は私の顔のすぐ横に手をついて行く手を阻む。見下ろしてくる笑顔が最高に怖いと感じた。
これじゃ本当に、逃れられない。

5/24/2024, 12:26:14 AM