初恋はレモンの味。
どこの誰がそんなことを言ったのだろう。
爽やかで甘酸っぱくて、吹き抜ける初夏の風のような憧れを抱かせる。ずるい謳い文句。
私は知っている。その甘さは"普通"の人だけが知れる味だ。
「先輩と付き合うことになったんだ」
私の初恋は、親友のそんな言葉でもってはじまる前に終わってしまった。
親友だから一番最初に伝えたくて。
その言葉が嬉しくて。はにかんだその笑顔が無性に愛しくて。それが自分のものにならないことが、悲しくて、悔しくて。
そうして気付いた。私の初恋。
彼女は大親友で。どこに行くにも、何もするにも一緒だった。なんでも話せた。なんだって聞いた。彼女のためならどんなことでもしてあげたい。そう思っていた。
私たちはずっと一緒にいるんだと、疑いもせずに思っていた。
その想いは"普通"とは少しだけずれていた。
「おめでとう」
言葉と笑顔を取り繕ったけど、うまくできていたかはわからない。
少しずつ、離れていく距離。過ごすはずだった時間が、違う誰かに奪われて過ぎ去っていく。
彼女が私と"同じ"だったら。きっと今も、そこにいたのは私だったはずなのに。
苦い、苦い記憶。
その味は今も少しも変わらない。
一枚の招待状。二人は結婚するらしい。
もしも、彼女が振られたら。そしたら私の元に帰ってくる。抱きしめて、慰めて。今度こそずっと一緒にいたい。
そんな身勝手な期待は叶うことがないまま。煤けた想いは吐き出すことのないまま。
"普通"から逸脱した私は、レモンの甘さを知らぬまま。
苦味にずっと囚われて。想いをずっと秘めている。
【初恋の日】
5/7/2023, 4:04:48 PM