胡蝶花

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『柔らかい雨』


本部との通信を終了し、端末を押さえていた右腕をだらりと下げる。足の力が抜け、そのまま倒れるように、ぬかるんだ地面へ座り込んだ。
敵部隊の殲滅作戦は成功。救護ヘリを要請し、あとは迎えを待つばかりとなった。

荒れ果てた丘の上には、横たわる彼女と、自分だけ。

周囲の空気は冷たく、音のない雨が大地を濡らしていた。
小糠雨に打たれる彼女は、ただ眠っているようにしか見えなかった。だから、日が昇れば、目を開けて「おはよう」と言ってくれるのではないか、いつものように軽い運動をして、朝飯を食べて──
また新しい一日が始まるのではないか、と錯覚しそうになる。

ギリ、と奥歯を噛み締める。それと同時に涙が頬を伝って、落ちた。

柔らかい雨が、傷に沁みた。

11/7/2021, 5:08:01 PM