「たまには雨が降ってほしいものだね」
演奏者くんが空を見上げながらそういった。
「雨⋯⋯?」
「雨、知らないかい?」
「いやさすがに⋯⋯」
「じゃあなんでそんな反応を⋯⋯?」
「ほら、雨ってやな事ばっかだから」
ボクがそうぼやくと彼は笑った。
「確かに『人間』にとっては雨というものはけして心地いいものとは言えない。でもね、他のものにとってはそんなことはないんだよ」
「例えば?」
「最たる例は植物だろ。手作業で水をかけるのもいいかもしれないがやはり限度がある。やはり広範囲にかかる雨の方が有難いんだよ」
「ふーん」
「興味無さそうだね」
降らない雨の話をして興味がある方がおかしいんじゃない? なんて言わずにボクは曖昧に微笑んだ。
「梅雨はね、いいよ」
「なんで」
「雨が沢山降る、夏の準備をする⋯⋯⋯⋯いい事だらけだ」
「そんなに言うなら人間界に住んだら?」
「あはは、冗談だよ」
「何が?」
彼は答えなかった。
明るく笑った彼はなんだか晴天というよりも、雲から覗いた一筋の光をもたらすそんな時の太陽のような顔をしていた。
6/1/2024, 5:04:56 PM