ずい

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『君と出逢って』

大きな鳥居の下で君と出逢った。
摂社に続く階段を下りていたら、本社にある鳥居で人の子が泣いているとカラスたちが騒ぐものだから。日が沈んで黄昏時も近づいているから危ないと、家に帰りなさいと言って姿を消すつもりだった。

「何をしてるの?」
「えっ?」

他に誰もいないと思っていたのだろう。
驚きあわてふためく様が可愛かった。

「可愛かったんだがなあ」
「えー? 何々? 好きな子でもできたの?」

大きなため息をつくと背中を何度か叩かれた。
私がいなければ一人で妖の対処もできぬというのに。
助けてやったのになんという態度。

下を見ればぶら下がるのは傷ついた二本の足。くだらない神使の会合になど出ていなければ間に合ったのに。怪我をさせてしまった。
だが、これとそれとは別の話だ。
わざと体重を後ろにかけると後ろで叫ぶ声がした。

「ちょっとお」
「足がすべった」
「絶対ウソでしょ。笑ってるし。もう、神社に着いたら神様に文句言ってやるんだから」
「稲荷様は暇なお方ではない」
「じゃあ代わりに聞いてくれる?」

苦い顔をすると、見えていないはずなのにけらけらと笑い出す。この人の子に出逢って人とはかくも表情を変えるのだと知った。
ついでに胸のつかえや痛みを知った。
稲荷様にお仕えする。ただそのために在るというのに。
人はこの胸の痛みを何と呼ぶのだろうか。
この、胸の高鳴りを何と呼ぶのだろう。

5/5/2024, 3:20:32 PM