『さらさら』
僕の記憶の中に残っている彼女の思い出はもうわずかにしか残っていない。
時を追うごとに頭から彼女と一緒に過ごした思い出だけがさらさらと消えていくのだ。
彼女が消えてもう何年たっただろう。
僕は数年前に彼女を探すことを諦めた。自分でも情けないと思う。でも、彼女は僕に何も言わずにある日突然姿を消した。
理由は分からないけど僕に言わなかったということは少なくとも言わなくてもいいことだったんだろう。
もしかしたら彼女は僕に見つけてほしいわけじゃないかもしれない、そういう思いだけが僕の心の中に渦巻いていてだんだんと僕は彼女にとって必要のない存在なんじゃないかと思い始めるようになった。
彼女のいない生活を送るようになってから、僕の日常は以前とまったく変わらないのに記憶だけが塗り替えられていくのだ。
まるでさらさらとなくなっていく砂のように。
だから、僕は彼女に関わるすべての記憶が消えるまで待つことにした。
たとえ、何十年かかったとしても。
それだけ彼女を愛することができたと考えれば少しは気が楽になったから。
だからもう少しだけこの時に身を任せようと思う。
5/28/2025, 1:00:22 PM