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 お題「記憶の地図」

 あれを思い出すと必ずこれを思い出す、というような記憶の中にも道順のようなものはあるようなのです。

 昔、学校から帰ってくるとお気に入りのマグカップは食器棚から消えていた。
 母に聞くと飲み口が欠けていたので捨てた、と。その言葉を聞いたとき自分の頭がぐらりと揺れた気がしたのを数十年経った今でもはっきりと覚えている。

 あのマグカップは小学校に入る前、初めて自分で選んだ自分だけの食器だ。
 自分が好きな形で。
 色で。
 柄で。
 素材で。
自身の好みを初めて自覚しながら、悩みながら出会った大切なお気に入りのマグカップ。
 僕はそんな大事なマグカップの最期を惜しむ事ができないまま別れてしまったと。
 他の人が聞いたらそんな大袈裟な、と思うことだろうが、あの頃の自分にはマグカップごときでも、大切なものとの別れは重要な事だったようだ。

 今でも、大事なものが出来ると必ず思い出す。

6/16/2025, 10:53:41 AM