シシー

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 毎年この時期になると憂鬱になる。自分が生きていることを直視させられて、逃げ道などないと言わんばかりに時間だけが過ぎていく。
 テレビの向こうには人混みの中で笑い合う人たちがいて、窓の外からは寒い中はしゃぎまわる子供の声が聞こえてくる。俺にもそういう時期があったのにな。無性に腹が立ってしかたない。

 とっくに成人して働いているのに、未だにお年玉をもらう情けなさといったらない。臨時収入だと思ってありがたく受け取ればいいのだがそうもいかないのだ。
生まれたばかりの赤ん坊の頃から成人しておっさんと呼ばれる歳に片足をつっこみつつある現在になっても俺は『子供』でしかないのだ。
 いつまで経っても俺を『俺』として認めてもらえない。
都合のいい、聞き分けのいい大きな子供という認識から抜け出せない。介護だ、親孝行だと思ってしたことはすべて『子供のお手伝い』となり、やって当たり前だと叱られたり褒められたりの繰り返し。
薄給なせいで一人暮らしもまともにできないからずっと実家にいるけれど、もう限界だ。

 淹れたてのコーヒーに砂糖をいれる。カチャカチャと音を立てて混ぜてやればあっという間に溶けて白かった砂糖は跡形もなく消えた。コーヒーの香ばしい香りにわずかに甘い香りがまとわりつくようにして残るのが、なんだか今の自分のように思えて気持ち悪くなった。
 ぼんやりと立ち上る湯気を眺めていたら、横から手が伸びてきてカップを奪われた。「飲まないのならもらってくね」と言葉もなく視線だけ向けられるだけ。反論も抵抗も何もしなかった、できなかった。

「…またはじまるのか」

 汚らしい家族ごっこのはじまりはじまり。

                 【題:新年】

1/1/2024, 2:12:06 PM