霜川菜月

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このページをめくれば、君にもう会えない。
でもそうしなければ、僕は元の世界に帰ることが出来ない。

「君のことわすれない」
「私も、わすれない」

幼い僕らは最後の言葉を交わし、僕は現実世界に帰ってきた。


あの不思議な体験から15年が経ち、あれはやっぱり夢だったんだろうかと思うようになった僕は、すっかり現実を生きる大人になってしまったということなんだろうか。

焼けるような暑さから逃げ込むように図書館へ入り、窓側のいつもの場所へ向かう。

すると、今日はその場所に先客がいた。

絹糸のような長い黒髪の、眼鏡をかけた姿勢のいい女性だった。

支える白い指が折れてしまいそうなほど分厚い本を、真剣な顔つきで読んでいる。

その人はまるで...いや、さっきまで15年前のあの出来事を思い出していたからだろう。

けれど僕にははっきりと、あの子の姿と重なって見えていた。


彼女の向かいにそっと座る。

僕は新しい記憶のページをめくった。

9/2/2025, 1:08:17 PM