川柳えむ

Open App

 それはまるでスローモーションのように。
 頭上から鉄板が落ちてくる。その後どうなるか理解した瞬間、声にならない声で叫んだ。
「時間よ止まってくれ」
 時を止めて。そしたら、僕はこの手を伸ばして――。
 しかしその願いは届かず、目の前の君の姿が見えなくなった。
 叫びながら再び願った。
「時間よ巻き戻ってくれ」
 そしたら、今度こそ君を救うのに。

 ――目の前を、君が楽しそうに歩いている。
 何が起きたかわからない。
 さっきのは白昼夢だったのか。でも、なんでもいい。君がここにいる。
 君に声を掛けようとした瞬間、再び鉄板が空から降ってきた。
 駄目だ。また。間に合わない。
 時間を止めたい。その願いは叶わない。
 しかし――。

 また、君が目の前を歩いている。
 どうやら、僕の『時間を巻き戻したい』という願いだけが叶っている。
 しかし、あまりにも巻き戻る時間が短かった。
 どう足掻いても、君の姿は消えてしまう。
 これを繰り返すくらいなら、そんなこと願わなければ良かった。こんなに何度も君を苦しめることになるなんて。

 前を行く君が笑う。
 この瞬間だけを切り取って、時間が止まれば良かったのに。


『時を止めて』

11/5/2025, 10:57:15 PM