Frieden

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「さよならを言う前に」

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敵国を撃ち落とすために戦地に赴いた貴方。
この戦いが終わったら、結婚しようと約束をしました。
今、貴方はどうしているのでしょう。

焦げたにおいと人々の泣き声で溢れる焼けた街で、なんとか暮らしています。昨日やっと水にありつきました。

かつて貴方に褒めてもらった私の黒髪も、燃えて短くなってしまいました。貴方に褒めてもらった白い肌も、火傷で真っ赤になってしまい、もう元には戻りません。

私の命はもう長くないでしょう。
家の庭だった場所に咲く朝顔よりも、きっと短いのでしょう。

貴方と連絡がつかなくなってどのくらい経つのでしょうか。
1ヶ月?半年?それとも1年以上?

貴方は生きているのでしょうか?
それとももう、雲の上におられるのですか?
もしそうであれば、もうすぐ会いに行けそうです。

もし貴方が生きているのであれば、私がさよならを言う前に、最後の我儘を聞いてくださいませんか?

私のことなど忘れて、もっと素敵な方と結ばれてください。
そして暖かく幸せな家庭を築いてください。
どうか、どうか最後まで貴方のままでいてください。

  焼け野原 燃ゆる家々 焦げし日々
         残りしものは 貴方の微笑

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君が遺した最後の手紙を読んで、僕はただ手を震わせることしかできなかった。

もしあと1日でも早く帰っていたら、君はもっと安心できたのかな。もう少し僕が丈夫だったら君を苦しませずに済んだのかな。

もし僕にもっと力があれば、この戦いを早く終わらせることができたのかな。

もし僕が君を追えば、また会えるのかな。

僕は君の黒髪と白くて綺麗だった手を握って、君の好きだった白い菊を餞として添えた。

8/21/2024, 10:35:29 AM