神崎たつみ

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『人気アイドルTrickstarメンバーの遊木真さんが失踪して一年が経過しました』

 不意にテレビから流れてきた音声に顔をあげて映し出されている画面を見つめた。
 一年前。遊木さんは誰にも何も言わず姿を消した。所属事務所の責任者である天祥院財閥の、巨額な資金を使っての捜索にもかかわらず見つけることが出来なかったのだ。消えたその日に殺されたのか、とか何とか噂も立ち上っては消えた。だって何の痕跡も見当たらなかったのだから。
 オレも自分が知る範囲で探した。仕事のない時間はフルに使って探して、そして何の手がかりも見つけられなかった。
 幾ら有名になっても、その話題はあっという間に世間から忘れ去られる。そういえばこんなこともあったよね、なんて軽い話題として扱われる程度なのだ。一過性のゴシップ。画面の向こうで起きた不思議な話題。ただの娯楽。身近で接していないのならそんなもんなのだろう。
 ぼんやりと画面を見ているといつの間にか天気予報に移り変わっていた。
「……遊木さん」
「呼んだ?」
 幻聴が聞こえるなんてもうオレはダメかもしれない。でもその幻聴に縋りつきたくなる。
「遊木さん! ここに来てくださいよぉ!」
「わかった」
 続いた幻聴と同時に眼前に姿を現したのは。……幻覚まで見えている。本当に末期だ。
「漣くん、久しぶりだね!」
「……何呑気なこと言ってんすか……。一年経ってるのに……って、遊木さん?!」
 その肩を掴むと幻覚に触れることが出来た。
「い、痛いっ! 漣くん!? 何?」
「何? じゃねぇんですよ! 何処行ってたんですか! こっちが心配して探し回ったってのに……! つうか、何処から出てきたんですか? ……え、どうなってるんです?」
 勢い任せに言葉を放っていると徐々に自分の頭が冷えていくのがわかる。どういうことだと問いながら、ぐるぐると頭の中で『?』が回り続けていた。
「話すと長くなるんだけどね、異世界召喚されちゃって……!」
 オレの頭は本当に末期なのかもしれない。

#一年後

5/8/2023, 11:30:02 PM