ストック

Open App

Theme:子供のままで

十数年ぶりに高校時代の友人だった女性から、近況を聞くメールが届いた。
これまでまったく音沙汰のなかった昔の友人。正直に言って、返信をかなり逡巡した。
だが、よく思い出してみると、今日は彼女の誕生日だ。
誕生日を手放しで喜べない年齢にもなると、ふと子供の頃を懐かしく思うこともある。それで連絡してきたのかもしれない。
そう思い、私は誕生日の祝いと近況を伺う文章を打ち込み、返信した。

すぐに彼女から返信がきた。久しぶりに話してみたくなったのだと言う。
何度かメールをやり取りするうちに、彼女から送られた一文がチクリと刺さった。
『昔と変わっていないようで安心したよ』

現在の私は、彼女が知る私とはまったく違う。
多趣味になった。フットワークが軽くなった。一人の時間を楽しめるようになった。
空気を読んで振る舞うようになった。性悪説を信じるようになった。高校を卒業する程度の時間を要しても、人を信用することはできなくなった。
良くも悪くも、私はもう子供のままではない。

十数年、何も変わらないでいることの方が難しいのではないだろうか。
メールの先にいる彼女も、きっと私の知る彼女ではなくなっているのだろう。
そこまで考えて、ふと気がついた。
子供の頃を懐かしむのは、年月と経験を積み重ねる過程で失ったものを懐かしんでいるのかもしれないと。

『そのうちに会おうね』とメールを打ったが、きっとその日は来ないだろう。
会ってしまったら、子供の頃の自分に会えなくなってしまうだろうから。

5/12/2024, 10:51:07 AM