「勿忘草」
お見舞いの花といえばカスミソウだ。
小さくて可愛らしくて少し呼吸するだけで揺れるような花だ。
入院していた時はちょうど冬だった。その花が雪のように見えたのを覚えている。
「早く元気になってね」
優しい言葉がどこかよそよそしい。彼女の両親が離婚しても私がいじめられていた時も私と彼女は互いに互いを煽りあうほど信頼していたはずだ。
どうしてこんなに他人よりも遠い距離になってしまったのだろう。
ひさしぶりに会ったから?
自分の話をしなくなったから?
これまでどんな話をしていたっけ?
「じゃあ…」
顔を背けて病室を出ていく。
もうこのまま会わなくなるだろう。
長年の友人との最後がこんな気まずいものだなんて。
ただ彼女には私を覚えていて欲しいと思った。
距離が遠くなっても誰よりもそばにいた記憶は本物だ。
「ねえ、待って」
弱々しい声が呼び止める。
私忘れないよ。守ってあげられなくてごめんね。
カスミソウが揺れる中、忍ばせた勿忘草だけが凛としていた。
2/3/2026, 1:20:51 PM