ここにある
ひまわり畑を割るようにどこまでも続く一本道。
でこぼこした赤いレンガ道は、入道雲の広がる空へと続いているかのように緩く上るカーブを描いている。
揃って太陽に向かって咲いているひまわりはまだ五分咲きくらいだ。一様に同じ方向を見つめる花々は、その生態を知ってはいても、何処かエイリアンじみていて不気味に映る。そのせいか、もと来たコンクリートの道が見えなくなる程歩いていても誰ともすれ違わない。まるで僕ら以外の人間がいなくなってしまったか、あるいはこの場所が世界から切り取られてしまったみたいだ。
満開だったならばそんなことはなかったのかもしれない。夏の眩しさそのものみたいな視界いっぱいを埋め尽くす黄色はきっと人を惹きつける。
まだまだ緑の多い花畑の所為か、
じりじりとした日差しに、たらりと背中に汗が流れる。
隣で持ち主の意識から外れてしまっているようにぶらぶらと手が揺れている。手の甲同士が触れてしまいそうな程近く、けれどそれが決して自然には触れないのだと知っている。
隣をぶらぶらと揺れている手を取れば、弾かれたように緑の瞳がこちらを向く。
瞬間明るい緑色の中に怯えが浮かぶことを僕はよく知っている。
「」
警戒心の強い野生動物さながら、赤いレンガの道の前後を執拗に確認する。
繋いだ手には縋り付くように力が込められた。
人影がないことを認めた後、ようやく手から力が抜かれて指同士が絡んだ。
じりじりとした日差しに緩やかな上り坂を歩くだけでも大粒の汗が止まらない。
生え際から流れ落ちたそれが目に入りそうになって、無意識に利き手を持ち上げた。
抵抗もなく持ち上がったのは二人分の手。
もう一人の手の持ち主は焼き焦がすような暑さに表情を取り繕う余裕もないらしい。うんざりと眇められた緑の瞳がこちらを向く。
繋いだ手に二度、力が込められる。
同じように返せば、ほんの僅かに口角が持ち上げられた。僕の口角もやんわりと頬を押し上げている感触がある。
面白くなって
額から流れ出た汗は眼窩の上で脇に逸れ、目尻を掠るだけで顎へと落ちていった。
「」
背中に回された両腕に力が籠められて、心臓と心臓がぴったしと重なる。とくとくと途切れることのない拍動が、僕の心臓を通して指先にまで伝わる。じわりとした安心感が広がって、体の力が抜ける。
サラサラとした黒髪が首筋を擽る。
ゆっくりと抱擁を解くと、緑の瞳
怖いものなし。
時にはおどけたように、時には奮い立たせるように。僕は自分のことをそう称する。
高い所に登れば下を見れず。
一番は腕の中の温もりが消えてしまうこと
8/28/2025, 9:55:30 AM