「手紙を書いてみたから、あげるよ蒼原」
「色々言いたいことはあるけど、急だね…」
突然青雲に渡された、それは一通の手紙だった。薄青色の無地の封筒には深紅の封蝋がつけてある。
「…ご丁寧だね」
「いいでしょ、これ。福袋で当たったんだ」
「在庫処分にしてはいいものだね」
そう言いながらため息をついた。福袋なんて嘘だ。青雲がそんなよくわからないものが入っている福袋を買ったところを見たことがないし、第一、封蝋が入っているわけがない。……もしかしたら入っている福袋もあるのかもしれないけど。
でも僕はその嘘に乗ることにする。僕からしたら普通に買ったと言われても嬉しいけれど、青雲からしたらこのために態々買ったと知られるのは恥ずかしいのだろう。
「今、中を読ませてもらってもいい?」
そう聞くと青雲はびくっと肩をゆらして、大きく首を横に振った。
「も、もちろん読んでほしいけれど、私がいなくなってからにしてくれ!流石の私でも恥ずかしい…」
顔を真っ赤にして力なくそう言う青雲を見て、頷きながらも何が書いてあるのか興味が湧いた。「このあと用事があるからすまない」と帰っていく青雲に手を振りながら、これを渡すために来たのかと手紙をもう一度まじまじと見つめた。
自分の部屋に戻り封蝋を丁寧に剥がす。一体何が書かれているのか、開ける前に考えた。いつもは言えないことなのか、はたまた何かの報告か。何にせよ手紙で伝えたい内容とは何なのか。
封筒の中に入っていたのは一枚の便箋だった。そこにはたった一行だけ、こう書かれていた。
『君のことを、もっと知りたい』
便箋を持つ指に熱がこもる。この一言のために手紙一式を買って、どんな思いでこの言葉を書いたのか、青雲のいじらしさを感じて僕は右手で顔を覆った。そして笑いが溢れた。
「君に聞かれれば何だって答えるよ、青雲」
次会うときに何を話そうか、あの隠したがりで恥ずかしがりやに。僕は文章を書き起こすのが苦手だから直接伝えよう。だから、
「僕にももっと教えて、青雲」
3/12/2023, 2:51:34 PM