「誇らしさ」
「もう少し誇ればいいのに。」
僕の背後から声を飛ばす彼女は、さっきの一連の流れを見ていたようだった。
「別に。僕はただ当たり前をしてるだけだし。」
仔猫に餌をやりながら言葉を返す。
「謙虚なのはいい事だけど、謙虚過ぎるのも気味が悪いだけだよ。」
まるでやってる自分に酔ってるみたい。そう言う彼女の最後の言葉に僕は気付かないフリをした。
「こんなのは謙虚の内に入らないし、当たり前のことだから誇れるようなものでも無いから。」
僕のやってることは小学生でも出来てしまうような当たり前のこと、これを態々誇るのは馬鹿にも程がある
そう裏の意味を言葉に込めたが、彼女には伝わっているか怪しかった。
「あっそ。」
見限りのような言葉と共に靴音が遠のいていく。
後ろを振り返ってみたが、見えるのは遠くなっていく彼女の背中だけだった。
「にゃー」
仔猫が弱々しく鳴く。
さっき与えた餌はとっくになくなっていて、もう無いのかと言わんばかりに僕の足に擦り寄ってくる。
「ごめんな、もう餌はないんだよ。」
伝わるか分からないが一応仔猫にそう伝えると、仔猫もまた僕に見限りをつけたように一声鳴いて、足早に去ってしまった。
「誇るってなんなんだろうな。」
無意識のうちに声に出てしまった問に返してくれる人は居ない、僅かにこの路地裏に声が響いただけ。
一人きりの路地裏は恐怖よりも寂しさが勝ってしまうようだった。
「帰るか。」
ボソッと呟く声もまた、路地裏に響いていく。
当たり前の行いをしたのに今僕の心に残っているのは達成感でも、満足感でもなく、単純な寂しさだけだった。
8/16/2024, 3:00:21 PM