るね

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見方によっては百合かもしれない。
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【風邪】


 1LDKでちょっと強引な二人暮らしでは、具合が悪いと言われても隔離する場所もない。彼女を看病するうちに、風邪は案の定私にうつっていた。
 しかも症状は私の方が重くて、喉は痛いし、頭も痛い。インフルエンザじゃないのが不思議なくらいの熱が出た。

 起き上がることもままならない私に彼女が聞いた。
「何か食べたいものある?」
 先に動けるようになった彼女が買うなり作るなりしてくれると言うんだけど、私が食べたいものはひとつだけ。

「お粥が食べたい……」
 痛む喉からはほとんど声が出なかった。私の顔を見て、彼女は何かを察したらしい。
「それって、アレでしょ。『米から自分で煮た美味しいお粥が食べたい』ってことだよね」
 こくりと頷く。彼女が「まいったね」と苦笑した。

 自慢じゃないけど、私は料理が得意だ。自炊ができることは長所だろう。自身の好みの味に仕上げるのは作り手の特権だ。だけどそのせいで困ることもあって……私にとって一番美味しいお粥は、自分で作ったお粥なのだ。

 具合が悪くてキッチンに立てない。そんな時にも食べたくなるのは自分の料理。そして彼女はあまり料理が得意ではない。
 私は彼女を見上げて言った。
「レトルト買ってきて……できたら、卵入りのお粥がいい……」
 炊いてあるご飯を煮たお粥よりはまだレトルトの方が食べられる気がした。






 どうにか風邪が治り、私は一冊のノートを買ってきた。しっかりとした表紙のちょっと高級なノートである。
 最初のページに書いたのは『レシピ帳』と四文字だけ。そこから数ページは目次用にあけておき、まずは『お粥の炊き方』を。なるべくわかりやすく、あまり料理をしたことがない人が見ても作れるようにと書いていく。

 レシピ帳を作ることにした一番の理由は、私が具合を悪くした時に、彼女に作ってもらいたいから。アナログなのは、もしパソコンに何かあってデータが消えたら意味がないからだ。
 だけど、彼女の負担になるようなら無理強いをするつもりはない。ただただ自分が作ったものを記録するだけになっても構わなかった。普段の私の料理は目分量だから、誰かに教えるつもりで書くのは難しい。改めてちゃんとした計量スプーンを買った。

 もしもこの先、彼女が料理に興味を持ってくれたら。そうじゃなくても、私に何かあって料理を作れなくなったら。私が今まで作ってきた料理の詳細は私しか知らない。何かの形で残しておくというのは悪くない。
 風邪をひいて大変な目には遭ったけど、新しい趣味ができた。料理を作ることと同じかそれ以上に、私はレシピをまとめることが楽しくなっていった。






 彼女は相変わらず料理を作ることが好きではない。その分他の家事をしながら「作りたくない」とはっきり言う。だけど、私の『お粥の炊き方』だけは、覚えようとしてくれているようである。



12/16/2024, 3:41:43 PM