彩士

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そこは真っ暗なトンネルだった。従兄弟のはっちゃんと追いかけっこをしているうちに全く知らないところに出てきた。空が暗くなるだけじゃない。はっちゃんの姿も見えなくなった。
「ねぇ、どこにいるの?おうちに帰ろうよー」
車が一台ギリギリ通るくらいの細い細い道に一人ぽつんと佇んでいた。ガードレールは過去に車がぶつかった跡がある。大きく反り返り、もはや、柵としての意味をなしていなかった。
「はっちゃーん!トンネルの中にいるのー?」
真っ暗なその先には光なんか見えない。このトンネルはちゃんと向こう側があるのか、こわくなってくる。コウモリが空を飛び始めて、余計に不安な気持ちにさせる。はっちゃん、どこにいるんだよ。
「こっちだよー!おいでおいで!」
トンネルのなかから、反響を繰り返した声が聞こえた。ぐわんぐわんと体を揺さぶられるような感じだった。
「はっちゃん!」
誰かの温もりを確かめたくて、僕はトンネルの中へと走った。
走っても走ってもはっちゃんは見当たらない。終わりも見えない。本当にこの先に道はあるのかな。わからない。でも引き換えすことも怖くてできない。何も見えてない状態で、目を開けても閉じてもひたすらな闇。
誰か、誰か、僕を家に帰らせて。
ハッと目を開けた。誰かが僕の腕を掴んだからだ。
「だれ。はっちゃん?」
「んーん。違うよー。私は美緒っていうの。怖くないよ。私この道知ってるからみんなのところに帰してあげる。こっち」
僕は何も見えないのに、美緒ちゃんは迷わずに進み始めた。黙々と腕を引っ張られながら歩いていると、小さな光が見えた。
やっと家に帰れる。
家に帰ったらお母さんにぎゅってしてもらおう。
安心から涙がとまらなくなった。
「美緒はね、ずっとここにいるの。だけど、もう来ちゃダメだよ」
トンネルから出る一瞬、耳のそばで聞こえた。
「あ!りっくんー!どこに行ってたの?おばさん探してたよ?早く帰らなきゃ」
「うん。はやくかえろ」
はっちゃんの前では泣きたくなくて、ちょっと強がっていたかったけど、だめだ。やっぱり泣いてしまう。
「どうしたの?なんで泣いてるの?」
「なんにもないよ。かえろう」
手を繋いで帰路へ向かう。
トンネルを振り返ると、そこには小さなお地蔵さんが立っていた。
美緒ちゃん、じゃあね。

7/3/2023, 11:46:23 AM