彼氏と並びながら街を歩く。通りはすでに
クリスマスの装飾に彩られ、電飾が瞬いていた。
「ハロウィンが終わったらすぐクリスマスの装飾か。
早いな」
「あはは、だね。ねえ、クリスマスなんだけどさ」
一緒に過ごさない?そう提案しかけたその時、
「おねえちゃーん!」
聞き覚えのある甲高い声に、私の体は反射的に
強張る。ひょいと角から姿を現したのは、
妹・野ばらだった。
「っ、野ばら?どうしてここに……」
「えへへ、お姉ちゃんに会いたくて来ちゃった♡」
「え、妹さん?」
彼が私と野ばらの顔を交互に見遣る。
「似てないでしょ?」
私が自嘲気味に問うと、
野ばらはすぐに彼に向き直った。
「お姉ちゃんの彼氏さんですか?こんにちはー!
野島 野ばらです(◍ ´꒳` ◍)」
嫣然と微笑む野ばらに目を奪われる彼。
その視線に、私の胸中がスゥッと
急激に冷えていくのを感じた。
まただ。だから会わせたくなかったのに。
昔から私は野ばらと比べられて育ってきた。
お人形のように華やかで美しい妹と、地味で目立たない姉。姉妹だと聞いて驚かれたことも少なくはない。同じ服を着ても、野ばらと私では月とすっぽん。
生まれ持った美貌と愛嬌ゆえ、周りから愛され、
全てを与えられて育ってきたにも関わらず、
野ばらは私の持ち物を何でも欲しがった。
服も小物も、そして恋人さえも。
両親も野ばらには甘く、
「ぼたんはお姉ちゃんだから我慢しなさい」
「妹に譲ってあげなさい」と、
常に私が割を食うことになった。
お姉ちゃんだから、お姉ちゃんだから。
――
そして予感は現実となった。
「別れよう」
彼から突然切り出された別れの言葉。
「他に好きな人ができたの?」
視線を泳がせる彼の挙動で私は全てを悟った。
――
「お姉ちゃん、聞いてる?」
いつもアポなしで現れ、自分が満足したらそそくさと帰っていく野ばら。今日もまた無邪気な声で
話し続ける妹に、ついに堪忍袋の緒が切れた。
「いい加減にしてっ!」
「ど、どうしたの、いきなり」
私のいつにない剣幕に、野ばらが押し黙る。
「どうしていつもいつも私の大切なものばかり
奪うの!?もう私に関わらないで!」
「お姉ちゃん……」
まるで傷ついた小動物のような表情を浮かべる
野ばらに、余計はらわたが煮えくり返った。
その後、野ばらからの着信もメッセージも
全部無視した。私は悪くない。
寧ろ今までよく我慢してきた方だ。
――
クリスマス当日。イルミネーションに彩られた街を
窓から眺める。
彼がいたら、今頃一緒に過ごしていたのかな。
ううん、今は仕事仕事!
そして夜遅くにマンションへ帰ると、
家の前に妹が立っていた。
鼻の先が赤く染まっている。
「……野ばら」
「お姉ちゃん……どうして無視するの?
のばら何か悪いことした?」
したわよ。あんたの存在が私にとって迷惑なの。
そう喉元まで出かかった瞬間、
野ばらが突然、子どもみたいに泣き始めた。
「うわあああああん!!!」
「!?ちょっ、やめて!」
このままでは近所迷惑になってしまうと私は急いで
妹を中に入れた。私があげたティッシュで、
ずびずびと鼻をかむ野ばら。
「のばらのこと嫌いにならないで( ߹ᯅ߹ )」
野ばらがギュッと私の手を掴む。
芯まで冷え切った手に私の心が微かに揺れた。
あそこで一体何時間待っていたんだろう。
子どもみたいに泣くのも、一人称:自分の名前なのも、この子だから許されているのだ。
本当に大嫌い。いなくなってしまえばいいのにと
何度考えたことか。
だけど、私はいつも自分に甘えてくる
妹の手を振り払うことができなかった。
Side:野ばら
昔からお姉ちゃんのものが何でも欲しかった。
お姉ちゃんが口をつけたケーキやアイスも、
お姉ちゃんが使っている小物も、着ている服も。
お姉ちゃんが大切にしているものは、
ぜんぶ特別で魅力的に見える。
でも、どれもお姉ちゃんの手元から離れちゃうと、
色あせたように輝きを失ってしまう。不思議!
てゆーかお姉ちゃん、男見る目なさすぎだよ!
お姉ちゃんの歴代彼氏を並べてみると、一人目は
超絶借金抱えてたし、二人目は裏で何人も彼女いた
浮気野郎だし、三人目はロマンス詐欺師だし……
はあ、ダメだこりゃ。やっぱりのばらがお姉ちゃんのこと守ってあげないと!
だからお姉ちゃん、
のばらのこと突き放したりしないでね?
お題「愛する、それ故に」
10/8/2025, 8:00:11 PM