【心の片隅で】
※ホラーの要素があります
朱肉は人の血ではない。そんなことは誰でも知っている。では何の血か。それは市役所前の石像脇に打ち捨てられたマスコットキャラの成り損ない、その血だ。
○○市には他の多くの市と同様に、市の鳥というものがある。○○市の鳥は文鳥だ。それをもじって、マスコットキャラの名前はブンチッチ。ブンチョウの頭三文字のブンチをとってブンチッチ。その残りはョウ。市役所脇には成り損ねたョウが倒れている。
ョウは半端なところで切られて血を流しているが、まだ生きている。ドクドクと流れた血を市役所の職員が回収する。職員と言っても短期のバイトだ。この仕事は正気で長くは続けられない。マスクをしても、腐った柿に酢を混ぜたような臭いに中ってしまうから。
回収された血は、煮沸消毒された後、濾されて朱肉となる。これが全国に出荷される。○○市だけで全国の朱肉の90%を賄っている。
市役所の前を通る度、心の片隅でョウのことを考える。
婚姻届に捺印する。うっかり人差し指の先に朱肉をつけてしまった。酸が鼻腔を突いた気がした。
12/19/2025, 5:27:57 AM