夏輪篤

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市民農園を借りた。平成27年頃のことだ。
野菜づくりをしようと思ったからだ。まだ小学生に入りたての娘の教育上良いのではないかという考えもあった。
12区画ほどに分けられた土地にサツマイモ、ジャガイモ、オクラ、ズッキーニ、ツルムラサキなどを育て、夏の間にはそれなりに収穫もあって食卓にのぼることもあったわけだが、畑仕事は2年ほどで辞めてしまった。
家族みんなでやろうという話で始めたことであったのだが、妻が作業中の日差しと虻などの虫の存在を理由に数回で来るのをやめてしまい、畑に行くのは私と娘だけになってしまっていた。
娘は鍬や鎌を扱うこともできず、小さな土の塊を集めて煉瓦のように積み重ねて遊んでばかりで、結果として畑作業は全て私の担当になってしまっていた。
また、畑の土が粘土質で、大量の堆肥を入れたり、サツマイモのツルや雑草を埋めて土質改良を試みたりしたものの、野菜作りの入門書に書かれているような、野菜作りに適しているふかふかの土にはほど遠いままであった。
畑仕事は苦ではなかったが、他人と挨拶したりするのは密かにストレスであった。
隣の畑を借りているおじいさんに挨拶されて、きちんと挨拶できない娘を叱ったりしていたが、私自身ができれば挨拶などしなくて良いように、なるべく両隣の人がいない時間に行ったりしていた。
年間確か4,000円で30平米程度の土地を借りることができるので、一年でほぼ私しか使っていなかったが、自分の数少ない趣味として野菜作りと言えるように、などという考えで細々と続けようと思っていた。
が、結局やめてしまったのは、私の借りている区画内に誰かの古いバケツや発泡スチロールの箱などが置かれるようなことが続き、自分で処分するのは嫌だったので共用の自転車置き場に置いていたら、「この場所にゴミを捨てないでください」という貼り紙を貼られるようなことがあったからである。
自分のゴミでないのは確かであるが、そこにゴミを捨てたのが自分であることは確かで、自分で自分を心から正当化できない振る舞いをしてしまった訳である。
野菜作りのできない冬の間、そんなモヤモヤした気持ちが晴れることがなかったため、4月に農園使用の契約の更新をしないことにしたわけである。
  
我が趣味は土いじりだと言っていたあの頃だけの麦わら帽子

8/12/2024, 3:03:21 AM