就職氷河期などと言われ、前途多難に始まった俺たちの社会への船出。周りの友達がどんどんと内定をとり船を港へと停泊させ新たな人生を始めたと言うのに俺だけは一向に停泊させるべき港が見つからない。二歳下の妹が笑う。
「お兄ちゃん、そんな顔してたら取れるものも取れないよ?」
「分かってはいるんだけど仕方ないだろう?もうお祈りメールと手紙ばかりみたせいで自信が放浪の旅に出ちまったんだよ。あんたとはいれないって。」
「あはは、なにそれ」
ふと腕時計を見れば次の面接に向かう時間だった。妹は俺の視線で察したらしい
「いってらっしゃい。大丈夫だから。笑顔でシャキッと頑張ってね!」
人が緊張にせっつかれ始めたというのに妹はそんなことどこ拭く風で、屈託なく笑うその笑顔を見ればなんとなく大丈夫な気がした。
一週間すぎた頃、いつもと少しだけ違う雰囲気の封筒が届いた。宛先を見ればあの日あの後に受けたところだった。ダメ元で自分には無理だろうと。まさか、そんな筈…開けてみれば受かっていた…。あぁ、お前まさか分かってたのか?どこか勘の鋭い所のあるやつだったからあれは俺を安心させるためでなく本当だったのかもしれない。
「よぉ。あん時お前が言ってたとこ、受かってたわ。お前分かってたのか?」
問いかけても返事はない。だがそこにいる気がする。
「俺、頑張るよ。お前みたいに頑張ってる奴らのためにも。な?だから見ててな。」
妹は世界でも珍しい病気だった。結局生涯を病院のベットで過ごした。そんな妹がひとつだけ俺にここで働いてほしいと珍しく真剣に行ってきたのがこの製薬会社だった。
面接からほどなくあいつは先に天国へ行ってしまった。最後の頃会社に入ったら…とまだ決まってもいないのにあれこれアドバイスを受けたっけな。何故製薬会社なのか全然わからないがいつかあいつに会える日までは頑張ってみようと思う。そして会えたならこの仕事の事を俺の人生を経験をいつかお前に届けたい。
1/30/2023, 5:23:43 PM