三輪哲夫

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 あの日の夢を今も思いだす。
 きみと僕のこと。いや、そこに僕はいなかった。
 きみはそのころいつもなぐられて、髪をひっぱられて、無視されて、教科書をかくされて、毎日々々、帰り途に一人で泣いていた。
 僕はいつもそんなきみを見ていた。
 きみは何もわるくなかった。生まれた環境が人とちがっていただけだ。それはどうしようもないことだ。
 僕はきみを救いたかった。こんな今から。こんな人たちから。
 それでも僕にはなにもできなかった。
 誰かがきみを助けた。きみは何もかも壊れたように泣き叫んで、喉を枯らして叫んで、喚いて、そうして最後には笑ってみせた。僕がはじめて見た君の微笑みだった。君の傷が癒えた音がした。
 僕はなにもできなかった。
 僕はきみを救いたかった。

 でももう二度と、僕はそんな夢を抱きたくなかった。

1/12/2025, 4:44:23 PM