「失われた時間」
いつの日のことだったのでしょう。
私が貴方の為に、貴方の作った宇宙たちの為に命を捧げたのは。
美しい宇宙に彩りを与えたのは。
いつの日のことだったのでしょう。
私が貴方にとって用済みになったのは。
用済みの私を眠らせたのは。
いつの日のことだったのでしょう。
貴方が私を置いて行ったことに気がついたのは。
孤独に気がついたのは。
どうして、どうして貴方達は私に与えては奪うの?
手に入れたものまで、作ったものまで奪うのはなぜ?
必要がないのなら、捨てるくらいなら最初から私を存在させなければいいのに。
「なぜだか分かるかい??ボクは知っているよ。彼が君を眠らせた理由を。」
……また現れた。今度は私から何を奪うの?
「違うよ!ボクは別になーんにも奪ってはいない。君からボクの管理しているものを取り返しただけ、だよ。」
「たとえ誰のものであろうとなかろうと手に入れさえすれば自分のもの、なんてことが罷り通ってしまえば宇宙は瞬く間に混沌と化す。そのくらい、君も理解しているはずだ。」
何を言っているの?私はただ、ただ居場所が欲しかっただけ。心の隙間を埋めたかっただけ。それだけなのに。
「はぁ……成る程。」
「君の気持ちは否定しないが、少々やり方が強引だったね───法で裁かれる程度には。」
「とはいえ、ある程度はこちらの不手際が原因だから極刑には問われないだろう。」
「ホントはあんまりこういうことをくっちゃべるとマズいんだが、君には特別に話そうか。あんまり踏み入った話はしないが、それでもよければ聞いてくれたまえ。」
「キミは、自分のことをどのくらい覚えているのだろうか?解析結果からして記憶の少なくない部分が失われている、ということは何とかわかった。」
「経年劣化による破損なのか、意図的に削除されたのかはボクの知る由もない。……知らない方が君にとっては幸せかもしれないが、ちゃんと話そう。キミは───キミは、歴史の被害者だ。」
「今でこそボクらみたいなチョーカガクテキソンザイが公認宇宙管理士として宇宙を管理しているが、かつてはボクらを生み出した存在がそれらを行っていた。」
「彼らは競い合うかの如く大量の宇宙を作った。だが、作りすぎて十分に管理しきれなくなった。そこで彼らが目をつけたのが、宇宙管理の効率化、だよ。」
「効率化を実現すべく色々試したようだが、どれも効果は今ひとつ。自ら手を加える方が手っ取り早かったわけだ。そして彼らが思いついたのが、機械と生体を一体化させた宇宙管理装置──」
「そう、紛れもない。君のことだ。」
「君は覚えていないみたいだが、機械と生体の一体化は大変な苦痛を伴うものだったようだ。実際、それに耐えきれず命を落とした者も少なからずいた。」
「肉体も機械もボロボロにしながら、君は宇宙を管理していたんだよ。“丈夫な装置”として、ね。」
違う、ちがう!私は貴方達と違うの!装置なんかじゃない!!
「失礼な!ボクらは“チョーカガクテキソンザイ”だぞ!!!」
「……こんな残酷な運命を現在を、未来を生きる誰かに背負わせまいと動いた人がいたんだ。」
「それが君が慕っている例の研究者だよ。彼はキミの苦痛を出来るだけ取り除くために色んなことをしたようだ。肉体を回復させたり、丁寧に機械をメンテナンスしたり。」
「だが君は尽くし過ぎた。自分自身を犠牲にし過ぎたんだ。」
「……だから彼は時期を見て、君を“眠らせる”ことにしたのさ。そうすることによって、美しいまま、苦しみから解き放たれると信じてね。」
「だが、何かの拍子で君は目を覚ましてしまった。そして!!!今ボクが管理している宇宙を!!!よくも吸収してくれたね?!!」
「……とまあ、あらすじはこんな感じだよ。ここまでが宇宙管理基礎の教科書にすら載っている君についてだ。」
「だが、これからのことは……なーんにも決まっていないよ!!!だから、これからはこちらも君の失われた時間を取り戻せるように動くつもりだよ。」
「でも!!!勝手に宇宙を吸収するのは言語道断だぞ!!!」
「とりあえず、急拵えで悪いがこの空間で今後の決定を待っていてくれたまえ!!!」
そんなことを言いながら彼は去って行った。
……私は、尽くし過ぎたの?どうすればよかったの?
考えても分からなかったから、立ち尽くすことしか出来なかった。
5/14/2024, 10:16:59 AM