朝のホームルームの始まる前の騒がしい教室。俺は課題を進めながら、隣の席の奴と中身の無い話をしていた。ヴヴ、ブレザーのポケットの中で小さく振動がした気がして、取り出して画面を確認した。すると画面にあいつからのメッセージが、子気味の良い音をたてて現れた。
『はよ』
『今日休むわ』
またか、と俺は溜息をつく。俺の学校では、本来休むときは電話で連絡する事になっている。だがこの怠惰な男は、俺を教師への伝達媒体か何かだと思っている節がある。
『なんで』
理由を訊くのは、彼の体調が心配だからでも、教師に訳を添えて伝えてやるための親切心からでも無い。そう、こいつが『ズル休み』の前科n犯だからだ。『やむを得る』理由で休んだその咎は枚挙に遑がない。ある時は古文の小テストがあるから、ある時はゲームのイベ周回で忙しいから、またある時は家の猫を撫でたいから、などとまあ、ふざけたことを抜かしやがった。そのせいで憐れな俺も、毎度教師に泣く泣く虚偽罪を重ねさせられているのだ。
返信を待っていると、横で見ていた友人が身を乗り出して、おもむろに画面を覗き込む。
「まだアイツ来ねーけど、休み?」
「そ、そんで今理由訊いたとこ。どーせまた仮病だろ。あのバカにひく風邪なんかねーよ」
「……ふーん」
友人は少し茶化すような、含みを持たせた目つきで俺を見る。
「…なんか言いたいことでも?」
「いやぁさ、お前ら何だかんだ仲良いよな」
「…まあ、否定はしないけど。言う程か?」
「だってさ、気が付くといっつも二人で駄弁ってるじゃん。あとアイツがお前にだけ連絡するのもそうだし、しょっちゅう昼飯も一緒に食べてるのもそうだし…」
確かに、昼は大抵二人で飯を食いながら無駄口を叩きあっている。そう言えば昨日もそうだったな。俺が購買のパンを食べているのを見たあいつは、タンパク質を取らないからオマエは筋肉ガ〜、とか言って自分の弁当の唐揚げを俺に押し付けてきて……
「あ、」
ふと一つの懸念に気付いてしまった刹那、バイブレーションが俺の手を震わせた。嫌に軽やかにッセージが姿を現す音がする。不味い予感を感じながら、視線をじわりじわりと下ろしていくと……
『今回はマジで風邪』
ああ、やっちまった!
あいつの唐揚げを食べた俺はゾンビ予備軍である。
【 風邪⠀】
12/16/2024, 4:33:09 PM