動物の毛質ってそんなに変わるものかしら。
お耳はふわふわ、尻尾はちょっと固め?実家にいたあの子を思い出す手触り。
そんな様子にさすがに辟易したのか、後輩はむすっとした顔で振り向いた。
「ちょっと。それ以上したら」
「したら?」
手を止めずにくるりと尻尾を回せばむずがゆそうに体を震わせて、それから飛び切り恐ろしい顔をする。
ピンと立った耳がまっすぐ向けられ、身じろぎするなと私を固まらせた。研いだナイフのような牙がぐわりと露わになって。
「ガブッ! とやっちゃうよ!」
……なんて可愛らしいこと。これはふふ、と声が漏れ出るのも致し方なし。
実際に『ガブッ!』とされてもどうせ甘嚙みとはいえ、機嫌を損ねるのも勿体ない。陽気の中をなんとか戯れに引っ張り出した恋人の剝き出しの犬歯にキスをして、今度は毛皮のない手のひらを包む。
「じゃあこっちね」
首ごとゆらりと振って逃げ出す視線を追いかけない。私達の春はまだまだ続くので、少しくらい逃がしてあげよう。恥ずかしがり屋相手なら夜桜の下という手もありますから。
4/10/2023, 11:13:50 AM