るね

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【光輝け、暗闇で】



 迷宮の管理は本来なら冒険者ギルドの仕事である。それなのに、このリドの街では、騎士団が迷宮に関わっている。

 俺は騎士団に入ったはずで、冒険者ギルドの職員になった記憶はない。けれど、リド砦に配属されてからは、迷宮関係の仕事ばかりだ。

 リドの街の周囲には迷宮が複数あって、冒険者ギルドだけでは手が足りないというのは知っている。けれど、迷宮の入り口の見張りなんていうのは、騎士の役目か?

 まあ……犯罪者が迷宮を勝手に拠点にしたら困るという意見は無視できない。迷宮の管理が街の治安維持に影響すると言われたら、確かにその通りだ。

 入り口だけではない。浅い階層の見廻りもしている。特に初心者が多い迷宮では、遭難者の救助が騎士の仕事なのだ。

 冒険者なんて、本来なら遭難しようが全滅しようが自己責任だ。けれど、俺よりも若い連中が再起不能になっていく様子をただ放って置くのは気分が悪い。

 今までここで働いていた他の騎士たちも同意見だったようで、昔は有志だけが行っていた見廻りが、いつからか通常業務に組み込まれるようになったらしい。

 見廻るついでに迷宮の中に目印を書いてやったりもする。出口はこっちだとか、次の階層はここからとか、休憩場所はあちらとか。

 少し世話を焼きすぎな気もするが、俺たちがこうして助けた中から、将来強い冒険者が現れてくれれば、迷宮の管理が楽になる。

 迷宮というのは、放置しすぎると中から魔獣が溢れ出るのだ。それを防ぐには冒険者に探索と討伐を続けてもらうしかない。

 街を守る騎士たちと迷宮を攻略する冒険者たちは、一見まったく別物に見えて、実は密に関わっているのである。

 だからと言って、何故、騎士である俺が仕事で土いじりをしなければならないのか……

「ああ、雑に扱わないでよ。貴重な植物なんだからね」
 冒険者ギルドから派遣されてきたとかいう男が顔をしかめている。そんなことを言われても、花の植え替えなんてしたことがない。

 俺が今植え替えているのは『夜光草』という植物だ。これは暗い場所でも枯れずに育ち、自ら光を放つらしい。

 周囲の魔素を吸収しているとか言っていたけど、詳しいことは知らない。説明は聞いたものの右から左へ流れていってしまった。

 とにかく。これは光る花が咲く。だから、冒険者ギルドではこれを育てて迷宮内に植え、目印にするのだという。

 剣を持つ手を泥だらけにして、俺はいくつもの苗を鉢に植えた。上からたっぷりと水をかけてやる。

 ある程度育ったら、迷宮に植えるのも俺たちの仕事だ。せいぜい光輝け、暗闇で。


5/15/2025, 10:46:04 AM