仕事場の窓からは、川が見えていた。
いかにも街中のといったような、あまりきれいとは言えない川だ。舟のエンジン音がブーンと通り過ぎる以外は、特に音もなく、流れているのかも分からなかった。
いま、小さな島のキャンプで、ちゃぷんちゃぷんといった波の音を聞きながら眠りに落ちようとしている。
海の音は、もっと大きいものだと思っていた。
昼の海は魚が泳ぎ回るのも見えるくらい澄んでいて、夏の太陽をキラキラと反射して、潮の香りも香ばしく、活動的に見えた。
いまは、押し黙るというよりも、もっと静かで、何もかもをその内に取り込んで離さないような、大きな引力があるような、不思議な感じだ。
あの川は、やがてこの海に辿り着くのだろう。
街の灰や塵を黙って飲み込んで、夜の海に引き寄せられる。そうして朝になれば、何食わぬ顔で空を反射してキラキラと輝くのだ。
けれど、皆、それを承知で海に出ていく。
『夜の海』
8/15/2024, 1:25:39 PM