新人の頃から大切に育ててきた後輩
彼の苦手な報告書の作成に付き合って深夜まで事務所に残ったり
営業でも謝罪でも何をするにも連れてって背中を見せてきた
あんなに弱々しかったのに
気づけば肩を並べて歩ける頼れる同僚となった
いつか一緒に起業しようと約束もしている
気も合って休みの日に遊んだり
夜にはオンラインゲームをしたり
連絡だって毎日とっている
こんなに気の合うひとと出会えたことは
自分の人生の中でも指折りに入る幸運
それぞれ家庭はあるけど
ずっとこんな関係が続く最高の相棒だと思ってた
それは突然のことだった
記憶を無くすほど酔い潰れて目が覚めたら
彼とふたり汗まみれでベッドの中にいた
断片的に思い起こせる記憶から逃げるように
家への道を走って帰った
ひと眠りしてから身なりを整えた
気を引き締めるよう白いカッターシャツを着込む
何かを振り切るように軽快すぎる足取りで快晴の空を見上げながら出勤した
いつものように顔を合わせたとき
いつも通りのテンポいいくだらない会話が広がってほっと胸を撫で下ろした
いままで通りうまくやれるはず
これからもこのままで
そう思った矢先に彼と目が合った
ふいに訪れた沈黙
口から言葉が出てこない
お互いの眼差しからは声にならない声が聞こえたような気がした
これ以上はいけない
私の心の奥に芽生えていた小さな感情に彼は気づいただろう
私も彼の心の奥で何かが蠢くのに気付いてしまった
お願いだから言葉にしないで
そうして沈めた気持ちから互いに目を逸らし合う
ツーカーも阿吽の呼吸もこれまで通りでいられますように
窓から空を見上げた
遠くに暗い雲が浮かんでいた
【心と心】
12/12/2024, 10:55:42 AM