ふわり、と紫煙をくゆらす。
もう何本目かわからないタバコを地面に押し付け、ポケットから箱を取り出し口に加える。ボックスに入れておいたライターで火をつけ、ため息と共に煙を吐き出した。
自分の周りは煙だらけだ。昔読んだお伽話では、火をつけたらご馳走が出てきておばあさんが迎えに来るんだっけか、とぼんやり考える。
———会いたい。
こんなもので会えるのなら肺でも舌でも喉でも癌という名のもとに神に捧げるのに。
「頼むから出てきてくれよ……。」
幻でもいい、夢でもいい。いや、今の状況こそ夢であってほしい。
冷たくなった彼女をみた時、泥濘に足をとられずぶずぶと沈んでいくようだった。
どんなに叫んでも、懇願しても、彼女の目が開くことはなかった。
女性でも抱えることができる重さと大きさになった彼女とどうしても離れたくなくて、骨を一欠片だけポケットに忍ばせた。ご両親には悪いと思ったが、籍を入れていない婚約者という立場では彼女と同じ場所に眠れないと思うと耐えられなかった。
からり、と瓶の中で彼女が鳴る。その音が、彼女の鈴のような声を思い出させた。
ああ、夢じゃない。
彼女はここにいる。それがひどく安堵感と絶望感を感じさせ、腹の奥に泥のように溜まっていく。
少しでも吐き出したくて、またタバコに口をつけ、肺に煙を充満させた。
【夢じゃない】
8/9/2025, 2:48:11 AM