ミミッキュ

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"届かぬ想い"

 自分の恋心に気付いたばかりの頃を思い出す。

 大学のOB。いづれは先輩。憧れの目を向ける。
 大学の後輩。科は違えど、いづれ後輩になるんだ、と少しお上りさんになって連絡を取り合い、科が違うのに勉強を教えると承諾した。
 一ヶ月経った頃。自分が抱いているものが別のものに変わっていっている事に気付いた。
 自分が抱いているものは普通じゃない。
 差別や偏見は根強い。
 そう思いながら過ごしてCRに配属されたタイミングで、『これから忙しくなる』と自分へ言い聞かせるように伝え、『既に科が決まっているのに、全く別の科の医師である俺に教えられるものなど無い』とごもっともな言い訳をして、半ば強引に、一方的に連絡を断つ事を告げて、赤の他人に戻った。
 連絡を断って数ヶ月後、俺が担当した最後の患者の枕元から見えたツーショット。
 恋人ができたのかと嬉しい反面、心の奥が張り裂けるように痛んだ。
 こんなの普通じゃない。
 俺が異性だとしても、抱いてはいけない。
 だからこんなの、絶対に表に出してはいけない。
 誰かに悟られてもいけない。
 俺へ向けられる怒り、憎悪、恨みは、俺の悲しみや痛みを癒してくれる。俺に《生きている》という実感をくれる。
 怒りは有限だが、悲しみは無限で消える事はない。
 だから会う度に怒りを向けてくれるような言動をして、新たな怒りを向けさせて、自身の心を満たす為に利用する。
 そうでもしないと、漏れ出てしまいそうだったから。
 突き放さないと、会う度に湧水の如く溢れ出てくる想いに耐えられなくなって、ダムが決壊するように想いを吐露してしまいそうだったから。
 だから、片想いのままで終わらせよう。長年の想いを、悲恋で終わらせよう。
 いつかこんな俺に、手をかけてくれるだろうか。
 身勝手な俺を、殺してくれるだろうか。
 ずっとそんな事を思っていた。

 もし当時の俺を言ってしまったら、酷く傷付けて怒らせてしまうだろうから、未練を拗らせた面倒くさい男の、告白以前の想いは墓場まで持っていく。

4/15/2024, 12:03:01 PM