毎朝、彼を見つめるのに忙しい。憧れに近いこの感情、すらりと伸びた足に驚くほど小さい顔、朝が苦手なのか不機嫌そうにしているのにそんな表情さえなんだか整いすぎて彫刻みたい。毎朝同じバスに乗って、別々の場所で降りる「頭もいいんだもんなあ」彼が降りるバス停は進学校の生徒が降りるそこで、私はその先の普通校のバス停。今日も彼の後ろ姿を見送るつもりで、少し後ろから見つめていたはずなのに「こちらのバスは車両不具合が発生し、このバス停で運転を取り止めます」後続のバスが来るらしいが、そんなの待っていたら学校に遅れてしまう。強制的に降ろされたバス停、彼の使っているバス停なのに、恨めしい「あ、あの」クラスメイトに伝言してもらおうとスマートフォンを取り出す「あ、あのっ!」「いっ」バシン、と叩かれた背中に思わず声が漏れ、後ろを振り返れば「あ、あ、す、すみませ…」「え…」目の前には憧れの彼、もしかして彼が背中を?なぜ?そして結構痛い、なんて頭はぐるぐるしている「あ、あの、第一の人ですよねっ」「あ、は、はい!三門第一の生徒です!」「えと…あの、辻です」「は、はい?」「つ、辻新之助で、す…」急に始まる自己紹介、どうしたら良いのか分からず自分の名前も伝えてみる「と、ともだちに、なってもらえませんか」「え?!」「あ、あぁ、すみません、気持ち悪いですよね、あぁ…」あからさまに落ち込むきれいな顔、こちらまで悲しくなってしまう「あ、あの違うんです、嫌とかじゃなくて、びっくりしちゃって。お友達、なりましょう?」「ほんと、ですかっ…良かった…辻です」まだ自己紹介してくれていて、もはやかわいいなんて思ってはいけないだろうか「ずっと、声かけたくて、ちょっと好きです…」言われた私よりもずっとずっと赤くなっている彼に愛しさが込み上げる。車両不具合ありがとうございます。
言葉にできない
4/11/2024, 2:23:22 PM