記憶
私の記憶は1日持たない。
約1年前くらいらしい。
らしいというのは、自分の日記にそう記してあったからだ。
それは、今一緒に住んでいる彼と出逢った頃かららしい。
彼は私に一目惚れして、今はせっせと私の身の回りの世話をして、私の生活費を稼いでくれている。
正直ありがたい話だ。
それと同時に申し訳ない気持ちにもなる。
私は自分のことで精一杯で、彼の気持ちには一切応えられない。
何も与えられないのだ。
彼は、君は君のままでいい。
僕のそばにいてくれさえすればいいんだよと言ってくれた。
でも、私は申し訳ない気持ちで押しつぶされそうだ。
私は寝る前に今日あった出来事を日記に書いたあと、ノンカフェインの紅茶を飲み干した。
紅茶が入ったティーカップが二つローテーブルに並んでいる。
片方は、転がっていて、テーブルを濡らしてしまっていた。
その下にはソファーにぐったりと横になる女性がいる。
やった、やっと彼女が手に入った。
僕は彼女の恋人でも、友達でも、親族でも何でもなかった。
ただ、たまたま駅ですれ違って一目惚れした。
色素の薄い茶色の瞳、キラキラと陽光に照らされた髪の毛。
ひと目見た瞬間、彼女しか僕の隣にいる人はいない!と強い衝撃が走った。
僕は彼女を尾行して、彼女の生活拠点や、人間関係を知り、偶然を装い、彼女と知り合いになった。
そして、友達と呼べるくらいにはなった。
部屋へ呼び、紅茶を飲ませた。
これにはとある薬が入れてある。
彼女は眠っているが、単なる睡眠薬ではない。
記憶喪失になる薬だ。
記憶は1日しか持たない。
これは僕がこっそり開発した薬で、世界のどこにもない物だ。
それを飲ませた。
彼女はきっと、僕のことだけを頼り、やがて僕だけを熱い目で見つめることになるだろう。
3/25/2025, 3:21:39 PM