「20歳」
成人式が近づいてきた一月上旬の週末。男は憂鬱な気持ちで家にいた。祖母と母がやたらと張り切って袴を用意しているのを見るとどんどんと気が滅入っていく。
『成人式の後、同窓会しようよ』
『いいね!どこ行く?』
『飲み行ってからカラオケとかでいいんじゃない』
『それアリ!さんせー』
『それじゃあ来れる人投票よろしくー!』
『はーい!絶対行く!!』
中学を卒業して以来ほとんど動いていなかったLINEグループからの通知がピロピロと止まらない。鬱陶しくなった男は傍らに置いていたスマホを手に取って、既読をつけないまま通知をオフにした。
成人式が行われるのは地元の施設だ。中学までは近くの公立校に通っていたが、高校は電車で通う程度の少し遠くに進学し、今は一人暮らしをして県外の大学に通っている男は、地元の友人とはすっかり疎遠になっていた。
そして成人式当日。式は午後からだが、男は昼前には袴に着替えさせられていた。
『あなたもついに成人したのねぇ』
『もう20歳なんて信じられないわ』
袴姿の男を見て、祖母と母が大興奮している。嬉しそうな顔で四方八方から写真をパシャパシャ撮られる。正直なところこれほどに喜んで貰えたならもう成人式の思い出としては十分でないかと男は思った。しかし、この様子の家族に今更成人式に行きたくないだなんて言える訳もなく、男は渋々成人式の会場へ向かった。
「久しぶり!元気だったか」
「あぁ、久しぶり」
「同窓会来るよな?」
「や、行かない」
「えぇ!なんで」
「家族で外食するんだ」
会場に着いて早々、男は名前も朧げな同級生から声を掛けられた。顔に見覚えはあるし、同窓会について聞いてきたのだから同じクラスだったのだろうがピンと来ない。名前を言わずになんとか会話を切り上げて、ひっそりとため息をついた。
憂鬱な成人式も始まって仕舞えばあっという間だ。うとうとしながらありがたいお話を聞いているうちに市長が最後の挨拶をしている。参加者全員で記念撮影をすれば、解散していいとアナウンスがあった。
俄かに会場が騒がしくなるのを他所目に、さっさと出口に向かう。ちらほらと掛けられる声に適当に返事をしながらも足は止めない。駐車場で迎えにきてくれていた父と合流する。会場の喧騒から離れられた安堵で、ようやく肩の力が取れた。
1/10/2026, 11:02:54 AM