ぱつぱつとビニール傘に雨打つ音が暗い夜道に響く。
ただ降り注ぐ雨とは違って、遮って鳴るものだから、余計に耳障りで。
ああ、ほら聞こえない。
隣合って歩いていて、本来なら手だって触れ合える距離なのに。
透明なのに二枚越しではその表情もくぐもってよく見えない。
雨が邪魔だ。傘が邪魔だ。
足元に広がる水たまりも大きく淀んで、靴も裾にも蝕んでいく。
「なあ、早いって」
ぱしりと掴まれた手首。
引かれるように半身ふり向けば、傘を閉じてこちらを伺う彼。
急に足を速めた僕に、その鳶色の双眸だけでなく、形の良い眉も唇にも怒りはない。
ただ、心配と、それから。
「雨、こっから強くなるらしいからさ」
早く帰ろう?
するりと僕の傘に入り込むと『手を取り合って』ひとつに握り込まれる。
思いの外、冷えて固くなっていた手をゆっくりほどいてくれる優しいぬくもり。
こうしていとも簡単に、捻くれた僕の気持ちをそっと汲み取ってくれる、僕には勿体無い、優しいひと。
あなたは何も悪くないのに。
僕に捕まってしまった、かわいそうなひと。
7/14/2024, 10:01:36 PM