定まらない

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俺は、なにかになれるのだろうか。

例えば、この空に色がついてしまったら、きっとこの人は離れていってしまう。

なにより、俺自身が

あぁなんだ、こんなものか

と、悪態を抑えきれなくなってしまうだろう。

いつだって寒そうに身を縮こめているから、毛布をかけてやりたくなる。

けど君は、「あついからやめて」と言う。

ただ、突き放されたと思えば、俺が悪かったりする。
手に持っていたのは焦げた毛布だった。

ハッと顔をあげて謝ろうとすると、もう君は帰ってしまっていた。

空洞の中に身を詰めようと、タオルを丸めて投げ込む。

いつだって、陽の匂いのするタオルに包まれていたいのに
実際にあるものは埃臭いタオルとも呼べないくたびれたもの。

君に貸してやれもしない。

例えば、
君が雨に打たれて帰ってきても、埃まみれの布切れじゃ温めてやれない。

俺が何もできないのをわかって、君は他の誰かの許へ行く。

まぁ、それで俺ができなかったことを誰かがやって、
その許で君が風邪をひいていないならそれでいいなと思った。

別に、愛とかじゃなくて
罪悪感を抱かなくて済むから。

外には、紫陽花が咲いていた。

あぁ、そういえば梅雨になったんだな

瞬く間に季節が巡って、何回目の梅雨かわからない。

うちにはカレンダーはないし、

時間を感じさせるものがなにもない。

そういえば、あの人は花が好きだった気がする

よく、「そろそろ拳の花が咲く」なんて言っていた

こちらが黙っていれば、勝手に説明し始める

「拳大の真っ白な花が木を覆って、スペード形になるのよ」

聞いてるとも聞いてないともいえない、相槌のような呼吸のような息を漏らすと、

次は隣で口ずさみ始めた。

なにも聞いていないのに、

「なんの歌か、わからないでしょう」

と言う。

「懐かしいわね」

なんて、訳の分からないことばかり言うから
もう理解を諦めた。


やけに静かな朝だなと思った。

正確には、世界が朝かどうかは分からない。

俺が目を覚ました今は、朝だ。

窓の外には、燻んだ空色。

遠くには濃い煙が立ち上っているのが見える。

畑の土が黒い。

また、焦げたのか。

早々に人々は郊外へ出払っているようだ。

この町に残っているのは俺だけか。

伸びをして、攣りそうになった脇腹を抑える。

どこからともなく聞こえた声に、視界が眩い何かに照らされて、引き寄せられた。


目が覚める。

なにか、どうでもいいような夢を見ていた気がする。

そんな夢の中と同じような現実が、また始まる。

3/7/2026, 4:31:05 AM