百合

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遠い約束

「何があっても守ってあげる」
そう言った幼い彼に幼い私は
「ほんと!?約束だよ」
と無邪気に返した。

そんなこともあったなと目の前にいる彼を見ながら思い出す。幼いながらに頼もしかった彼は今、私にひどく冷たい目と鋭い刀を向けている。
私は私の信念を貫いた。
彼も彼の信念を貫いた。
でも2人の信念は何一つとして交わらなかった。
私は彼に理解をしてもらえない信念のために命を投げ打つ。
彼は私が理解できない信念のために私を殺す。
ただ交わらなかったというだけで…
彼が今からすることはあの時の約束を果たすものではない。逃げられなくなった私をある意味救うための行動である。
彼が刀を振り上げた時、冷たい目の中にひどく悲しいものが見えた。
きっと彼は人を、幼馴染を安易に殺せるような人間ではないのだ。きっと昔のように優しい彼のままなのだ。
そんな彼の不器用さに呆れと哀れみと嬉しさを感じ、微笑みを浮かべた。
私の微笑みに僅かに怯みながらも、彼は私の首へと刀を送った。

私をあの世へと送る彼を恨みはしない
約束を守ってくれなかったと恨みはしない
ただいつか、交わらなかったが故にどちらかが犠牲になることがない平和な世で、あの約束を守ってほしい。

4/8/2025, 4:11:49 PM