ショウタ

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キャンドル

 お洒落な部屋で生活したいと言っていたら、ある日友人がキャンドルをひとつプレゼントしてくれた、と君が目の前で嬉しそうに話す。わずかに嫉妬心が孕んだのを悟られないように、自然な笑顔を拵えつつ、そうなんだ、と相槌を打った。
 彼はその新しい刺激の一部始終をこちらに伝えようと懸命にボギャブラリーを駆使する。どのように受け取ったのか、どこに飾ったのか、いつ使ったのか、香りはどうだったか、次はどうしようかとか。しかしその全ては自分にとってはそれほど重要な情報ではない。君が嬉しいことだけは伝わった。でも、その笑顔を与えられたのは自分ではない。その事実が、安易に話題に乗ることを阻む。
 聞いてる?と君は話の途中で窺う。聞いてるよ、と取り繕って答えた。些細な変化すらも伝わってしまう自分達の距離感を今だけは恨めしく思った。

「お前の部屋にあるの見てちょっと憧れてたんだよな〜」
「へ?」

今になって良さがわかった気がするわ〜とさっとスマホの画面で時間を確認して立ち上がり、さらっと爆弾を仕掛けてさっさと姿を消していった。
 残されたのは暗澹たる思考をぶった斬られて、少しのいい気分だけ。なんて奴だろうか。



2024/11/20


11/20/2024, 2:46:52 AM