「ねぇ〜、キスしよーよー」
誰が見てもおねだりとわかるように言った。
「そ、それは…ちょっと、だめ…かな」
彼はおどおどしながら言った。
「やっぱりだめ?」
「いつも言ってるだろ?僕のトラウマを共有したくないって」
現在、科学的に解明されていないが、稀に、キスをすると、キスをした相手の記憶を見れてしまう人がいる。私達はどちらもその体質を持っている。
彼は過去に犯罪の被害者となり、私にその時の記憶を共有したくないと言うのだ。なので付き合って2年になるが、一度もキスできていない。
「私はあなたに私の全部を知って欲しいのに」
「君だって生々しい犯罪の記憶なんて見たくないだろう?」
「別にそんなことないよ。とにかくあなたとキスしたい!」
もう我慢の限界である。はやく!いっぱい!2年分!すっごくキスしたい。
「ねぇ、もう無理。キスする」
「ちょっ、ちょっと待って。だめだって」
そんな言葉は耳に入らず、あとずさりする彼に足でドスドスいわせながら近づき、そのままソファに押し倒した。
「あなたの胸ぇ、あったかいねぇ」
顔を彼の胸にスリスリしながら、媚薬を盛られたのかってぐらいとろけた声で言った。
「しちゃだめだよ?君に苦しい思いをさせたくないんだ!」
もちろんそんなこと関係無く、彼の顔に近づいた。
「するね?」
「だ、だめ…」
彼は顔をそらしたが、私が力強く正面を向けさせ、そのままキスした。
彼の記憶がなだれ込んでくる。
小さな病室に、何人もの死体。その死体を生み出しただろう、腕が細い、小さい女の子のような、仮面をつけたバケモノ。
場面が変わった。
死体のふりをして隠れていた彼の顔を覗き込む例のバケモノ。馬乗りにされ、小さい手と腕から刃の大きいナイフが彼の喉に突き立てられる。
「あなたは私と同い年だと思うから見逃してあげる」
そう言ってバケモノは彼を気絶させた。
「…っ…はぁ」
長いことキスしたので息があがった
「あぁ…あ、あぁぁ」
彼は怖気付いていた。顔は恐怖に染まっていた。
「へぇ、あなた、あの病院にいたんだ?」
「そ、そん…な、嘘…だろ?」
とても震えた声で問いかけてきた。
「だいじょぶだって、私もう足洗ったから」
「ば、バケ…モノ…」
彼はソファからずれ落ち、そのまま後ろの壁に向かってあとずさりした。
「あなたのことは大好きだよ?殺せないよ」
どうやら彼は私の初犯の記憶を見たらしい。
「や、やめて!助けて!」
ついに彼の背中が壁にぶつかり、逃げ場を失った。
「だから殺さないし殺せないってば。もう殺しなんてやってないし、刑罰も受けて反省してるって」
「嫌、いやだ!やめて!」
「あなたには愛することしかしないよ?安心して?好きだよ」
「はぁ、あぁ、来ないで!やめろぉ!」
彼は泣き、叫び続けた。
「顔が汚れてるあなたもかわいいね?好き」
壁によたれかかっている彼の頭を撫でた。
「あんな過去、忘れられるくらいに、今の私に溺れて欲しいな」
そこから私達は、キスと絶叫を繰り返した。
かくして彼と私は狂依存の道を歩み始めた。
結構面白いかな〜?
2/5/2024, 1:22:47 AM