【未来】
晴れ渡るような青空から、ハラハラと真白い雪の欠片が舞い落ちる。きっと何処かの山に積もった雪が、風に乗って飛んできているのだろう。ジッとその光景を睨むように見据えながら、石段に腰掛けた君は小さく口を開いた。
「結局、神様なんてこの世のどこにもいないんだよ」
鳥居の下で放たれるにはあまりに不躾な言葉だった。けれど僕は何も言えない。君がどれだけ熱心に弟の幸福な未来を祈っていたか、僕だけは知っているから。
「祈ったって未来が保証されるわけじゃない。だから、もう誰かとの未来の約束はしたくない」
ごめんねと、君は泣きそうな声で囁いた。どうかこれからもずっと、君の隣にいさせてほしい――僕のそんな告白に対する、それが君の答えだった。
謝るのは僕のほうだ。君を困らせてごめん。正体を隠していてごめん。……君の純真な願いすら叶えてあげられない、役立たずの神様でごめん。
神様なんて無力なものだ。僕たちにできることは、ただ人の行く末の幸福を願うことだけ。未来を変えることどころか、未来を知ることすらできやしない。
それでも僕は、君の隣にいたい。あやふやな未来の先で、それでも君のそば近くで君の温もりを感じていたい。
「約束なんて、いらないから。そのかわり、僕が勝手に君のそばにいても怒らないでいてくれる?」
冷えきった君の手を取って、窺うように尋ねた。深く息を吸い込んだ君が、僕のほうを見ないままで頷く。
「それは貴方の自由だから、別に怒ったりはしないよ」
淡々と響く声は、けれどどこか柔らかい。その音色の安心感に身をゆだねて、僕はゆっくりと瞳を閉じた。
6/17/2023, 12:32:16 PM