300字小説
昇龍
民俗学の研究取材に龍を祀るという村を訪れる。今年は千年に一度、龍の子が巣立つという年で、村では盛大な祭が行われていた。
「子龍まんじゅうに子龍せんべい……」
子龍にあやかった土産物に振る舞い酒。村の人々が空を仰いでは
「めでたい」
と酒を酌み交わす。
ラジオから今日の午後の、この地方の天気予報が流れ出す。
『……今日の天気は晴れのち曇り、ところにより雨か雪……』
「なんなの、この予報……」
「子龍様が旅立つときは、いつもそうらしいですよ」
晴れていた空がにわかに曇り、パラパラと通り雨が降ったかと思うと風に風花が舞う。
『まだ天気を操るのは半人前ゆえ、すまぬのう』
空から声が聞こえた後、雲の間を細い龍が昇っていった。
お題「ところにより雨」
3/24/2024, 12:10:00 PM