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『夢見る少女のように』

週に一度、施設に預けた母に面会する。

ここの職員さんは皆よくしてくれているようで、入所当時に比べたら嘘のように落ち着いている。

ほんの半年前までは、地獄の日々だった。
汚物にまみれ、徘徊し、奇声や怒声をあげて暴れる。

元気な頃を知っているだけに辛く、諦めきれず、なにより言葉の通じない獣のような姿に恐怖した。
いつまでこれが続くのかと、悪臭が染みついてしまった部屋で、出口のない奈落に落とされたように毎日を過ごしていた。

見かねた友人が提案してくれて、ネットでカタログを取り寄せ、何箇所も足を運んで、払えるギリギリの予算の中から、ここを見つけた。

「お子さんがみえましたよ〜」

そう声をかけられても、母は反応しない。
薄く微笑みを浮かべて、車椅子に座って、テラスの硝子ごしに庭を眺めている。

空いている椅子を引き寄せ、隣に腰掛けた。
その手を取って声をかける。
母はもう、私を認識していない。

それでもよかった。
こざっぱりとしたショートヘアで、清潔な衣服に身を包み、けぶるような瞳で、なにか楽しい夢でも見ているような。
少女に戻ってしまった母の姿が、美しかったから。

6/8/2025, 8:24:02 AM