傾月

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我が家の新入りのこの黒い毛玉、たまにあまりにも長い時間同じ姿で眠っているから、生きているのか心配になって必要以上に触ってしまう。
触ると、ンニャ!と短く鳴きながらシッポでピシャリと床をひと叩きして、"かまってくれるな"と意思表示してくる。毎回申し訳ないなと思うけど、確認せずにはいられない。
これじゃまるでアレだ。赤ちゃんが息しているか確認してしまう親と一緒だ。先日会った友人夫婦が言ってたことが大袈裟ではないと、まさかネコで思い知らされるとは夢にも思わなかった。

コイツが我が家に転がり込んで来て半月が経った。最初はネコを飼うつもりはなく里親を探そうかと思ったが、まるでずっとここにいたかのような落ち着きっぷりに、無駄な抵抗はやめた。大家に確認したらありがたいことに「ネコくらいなら良いわよぉ」とユルい許可をもらったので、この黒い毛玉は我が家の一員、オレの相棒となった。
名前をつけなきゃな、と思いアレコレ考えた結果、風の強い日に転がり込んで来たことにちなんで、ハヤテとした。
「おーい、ハヤテ。お前の名前だぞ、ハヤテ。良い名前だろ?」と眠っているネコに声をかけると、またシッポでピシャリとされるかと思いきや、頭を上げこちらを見てきた。そして、黄色い目でこちらを見据えてニャンとひと鳴きした。
あ、理解したんだな、と悟った。


―――よるのゆめこそ [名付け]


          #65【胸の鼓動】【世界に一つだけ】

9/10/2023, 9:01:58 AM