眠れないほど
眠れないほど奇人変人のキモい先生の話し。
先生は自然主義派という文学の師的な小説家である、自然主義派とは人間の内面を抉り出すような作風で19世紀のフランスで始まり日本では明治後半頃に流行った文学の流れとか高尚な説明ではなく簡単に言えば人間の本性は醜いって考えで、父の戒めをことごとく破り自らの出自の告白に苦悩し葛藤する主人公の心の内を赤裸々に描く島崎藤村の「破戒」や中年の妻子ある小説家が自分のファンであり弟子に迎えた娘に恋心を抱き、その娘に男が出来たと分かると叶えられなかった己の下心から、嫉妬に狂い弟子である娘を破門し故郷へ帰すが、未練断ち切れず、娘の残した蒲團に包まりその残り香を嗅ぎながら娘を想うという、それが真実か!どんな真実だ!オッサンキモイだよ!な話で、なしてこれが文学?って思う人間の内なる真実を浮き彫りにする作品として現代にも伝わる物語なのである、、真実とはいつも残酷で醜いんだわね〜となる、だから真実が現実があまりに悍ましく汚れているから、装い着飾りワクワクしたいのか?(爆)先生は。
これに反するのが「反自然主義」「耽美派」自然主義文学の現実志向とは相反する虚構性・感覚重視の世界に真実を見る作風谷崎潤一郎は有名で、三島由紀夫などもこの反自然主義に数えられる。どちらも明治後半に隆盛を極めた文学の真実であった。他にも中二病の眠れぬ夜のお供には色々な文学の潮流があり、それを読み取ることは、大変面白く興味深かった。どれも100年以上私がそれらに出会った頃でもそれほどの時間が経過している物語たちであったが、ものがなく夜が静で夜空も近く闇の静寂も深々と伝わる頃に、それしか考えることのない時間の潰し用のない頃なら想像の翼は無限であったのかも知れないと思った、これら100年以上前の文学は100年経っても興味深く100年というゼネレーションギャップさえも面白く思うが、現代の新刊小説が100年先にも誰かの好奇心を刺激するとは思えないのである。
そう、考えると田山花袋のキモイオッサンの痴話話もアホか!と読むのも一興である。
「蒲團」
田山花袋
先生は30半ばで妻子持ちの小説家、そこへ彼の文学を師事する神戸女学院の女子大生が書生として弟子入り志願をして来た。
「一生文学に従事したいと」と熱望する彼女の一途で健気な志しに感銘しとならないのが自然主義派先生はありのままの自然な(手段は全然自然じゃないがw)男としての邪念に見舞われる先生なのである。
先生はこの若くてハイカラで美しい神戸女学院の才女と不倫したくて仕方がないという、ただの自然な男の性丸出しの脂ぎったデブ眼鏡のオッサンになり下がるのだった(笑)
世間の体裁を邪推した先生は表向きは恋愛など有り得ないが信条、師と弟子としてのポーズをとるために、姉の家に下宿させます。先生は先生とは名ばかりで、彼女との不倫を夢見想いをつのらせますが、表向きは関せずに下心だけで、想いを夜な夜な闇の中で認めます、それはまるで月明かりの中での自慰行為さながら。いや、実に人間の内なる闇を自然を抉っています。そこには一切の誤魔化しがありません、とても嘘がなく真実の剥き出しの心が語られます。キモ過ぎるけど(笑)
やがて娘は文学にのみ従事したいとの言葉は何処へやら、同志社大学の学生と恋に落ちます。19歳の娘と21歳の青年何処にでもいる美しい自然な真実のカップルでした。先生は自分の弟子の心配をする体で実は自分が気になって気になって仕方のない真実を知りたがります。青年と娘の肉体関係の有無にまるで何かに取り憑かれ闇の中で念仏を唱える病みの人のように怪しい目で娘に青年との関係を問いただしますが、娘は答えるはずもなく、先生は鬱憤を妻子にぶつけてしまいました。
先生は娘と青年を引き裂くために、娘を自宅に引き取り監視し変質な執着を見せます。それでも娘と青年は恋文を遣り取りし、逢瀬の秘め事を認め合います。嫉妬に狂った先生は幸せそうな娘を見ていることが只々腹立たしく、監視を強めますが、娘と青年が深い関係にあることをそのありのままの真実を知ってしまいます。
この後に及んでも娘は堕落してしまっただけで自分が妻子がいなければ娘を手にするのは自分であった、口惜し妻子が、妻子のせいだと考える変態さで、娘と青年を無理やり引き離し娘を実父の元に帰すのでした。
娘が去った娘が使っていた部屋で、懐かしさと、恋しさと寂しさのあまり、娘が寝ていた蒲團と夜着に顔を埋めて残り香を嗅ぐのでした。
ありのままで剥き出しの抉る様な、欲と悲哀と寂しさと絶望が先生を支配し、先生は、その蒲團を敷き、夜着を抱き蒲團に伏して泣くのでした。
先生!虚構で良いので、嘘で良いので、痩せ我慢して!笑笑 物語は嘘が大事だわと教えられた一作。
眠れないほどの15の夜にどうぞ、さらに眠れなくなること請け合いです。
全て個人の感想です。
令和6年12月5日
心幸
12/5/2024, 1:56:36 PM