かたいなか

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「月夜」、「真夜中」、「夜の海」、「夜明け前」。
お前とも随分長い付き合いだな。某所在住物書きは過去投稿分を辿りながら、ぽつり、ぽつり。
そもそも「夜明け前」は先週書いたばかりだと、ため息を吐き、ネタを探す。
やがてメモ帳アプリを呼び出し、簡単そうなひとつを閃いて書き始めると、

「都市部や観光地の夜景は大抵高地から低地を見下ろして人口の光を見るけど、
田舎や山間部の夜景はそもそも人口の光がバチクソ少ないから、天を見上げて星の光を見る、
……とか考えたけど、確実に、前回投稿分とネタが被ってるわな」

そもそも己の今書こうとしている風景を、前回の物語で使っていたことに気付き、
文章をタップして、範囲指定して、再度タップして白紙に戻した。

――――――

3連休最終日だ。
「月曜日」ってカンジがしない月曜日だ。
明日になれば、また仕事。嫌いな上司の顔色伺って、ブラックスレスレの業務をこなして、自分のAPとMPをやりくしながら、次のお休みまでHPを削る。

推しとごはんと、呟きックスと昼寝とお酒と等々が、ポーションでキズぐすりで回復薬。
明日からまた頑張りましょう。
きっと相変わらず上司はクソで仕事もクソだろうけど、乗り越えていきましょう。
ということで、職場の長い付き合いの、先輩のアパートで、半々にお金と食材出し合って、ちょっと贅沢なディナーとデザートを、シェアすることになった。

「明日も明日で、34℃予報だってさ」
先輩の部屋は、ある程度の高さの階にあって、防音防振対策完備な部屋で、
ワーストでもベストでもなく、まぁまぁ、窓の下にそこそこの夜景が見える。
「酷いよね。9月って何だっけ、っていう」
コンビニとか、カフェとか、他のビルの階下とか。
防音設備のおかげで、外の騒音なんて全然聞こえないけど、
光の洪水は、夜の営業と生活の過程と結果は、カーテン開ければ問答無用で入ってくる。

「先輩大丈夫?明日溶ける?」
そこそこの階に住んでる人なら、誰でも見てるような、別に10万ドルも1000万円も無さそうな、どこにでもある夜景を見る。
ちょっとまぶしい中での水炊きモドキは最高だし、その出汁を少しかけたたまご雑炊もおいしかった。

先輩は雪国出身だった。
寒いのは氷点下だって気にしないけど、暑いのはバチクソ弱い。
実際、いつかの35℃は職場でぐねんぐねんに溶けてたし、一度熱中症で倒れたこともあった。
懐かしいな、いつだったっけ。

「また倒れたら、私に構わず例の案件、進めてくれ」
答える先輩は他人事。
おかわりのお肉とスープを私によそって、渡して、それから私の空っぽになったカップをお花の工芸茶で満たして。
「私が居なくても、お前なら、なんとかなるだろう」
私と、私の奥に光る夜景を、
何か、思うところが有りそうな、心に1個か2個決意した事が在りそうな、
目の奥に小さい、強い光を秘める視線で、それとなく、見てた。

心当たりはある。
何を考えてるか、多分私も知ってる。
先輩自身の恋愛トラブルだ。
先輩を追っかけて私達の職場にまで突撃してきた、
先輩の住所を特定するために私に探偵を付きまとわせた、あの人。
例の初恋相手兼ストーカーさんだ。

先輩はこのアパートを引き払うつもりだ。
これ以上初恋さんが、私や先輩の周囲に迷惑かけないように、東京から離れるつもりだ。
いわゆる「女の勘」だけど、きっと、多分、そうだ。

ストーカーさんの暴挙を止めるために先輩が東京から出てくのは何か違うと思う(個人の感想)

「私、先輩居なかったら、バチクソ仕事サボるから」
良いよ。自分の口で、ハッキリ話してくれるまで、気付いてないフリしてあげる。待っててあげる。
水炊きモドキのお肉かじって、お茶飲んでジト目で先輩を見る私を、
「それは……困るな」
先輩は一生懸命に頑張った苦笑で、自分の本心を、必死に誤魔化してそうだった。

9/18/2023, 3:17:15 PM