自分以外の存在が消えてしまったよう。目に映るのは雨に掠れた不明瞭な世界で、聞こえるのは柔らかいシャワーが世界に跳ねる音だけ。世界から自身を隔離するように囲む雨のカーテンに守られている。騒音から現実から世界から。
雨粒が少し痛いかも。僕の存在はまだあるだろうか。それともカーテンに囲まれたのは世界の方?
濡れた髪を額からはらっても意味はなかった。頭痛がする。体温が奪われる。音を立てて降り注ぐ雨は僕を怒っているみたいだ。なぁ、おまえが立っているその場所は、本来雨のあるべき場所だ。邪魔だ。邪魔。
居場所を与えてくれたと思っていたけど。無条件に僕を世界から守ってくれるなんて、虫の良い話ないよね。僕の居場所は
雨がやんだ。冷水の如く冷え切った身体に触れた腕は暖かかった。彼の藍色の傘が冷たい雨を弾く。
「なに、してるの。こんなに冷えて」
「消したいと思った。雨は、全部を誤魔化してくれるから。でも、雨は僕のことが嫌いみたい。いっそ僕が、消えてしまえればよかった」
「雨にそんな力はないよ。あるとすれば、君に風邪を引かせることくらいさ。おいで、母様が心配してる」
誰一人、裏切りなどという行為はしていない。雨も、世界と切り離され戻れなくなった僕を家に迎えてくれた君の両親も、君も。僕が、勘違いを信じてしまうから。
8/27/2023, 3:33:33 PM